ラウラの種を蒔いた先々代の当主は、友人であった冒険者よりある時不思議な種を土産としてもらう。
友人の冒険者は冒険者を引退すると言っていたため、この種を持ち帰ったのが最後の冒険になる様だ。
彼には四人の腕の立つ仲間が居た筈だったが、もうパーティを解散してしまったのかその姿を見る事はなかった。

　友人はこの宝石の様に綺麗な色合いの不思議な種を渡す際に「これは不老長生をもたらす秘宝だ。だが、何があっても地に植えて発芽させてはならない」と言っていた。
ただ、普段から友人は事を大げさに語り冗談めかした話が多かったため、先々代はさほど真剣には受け止めていなかった。
（この約束は数年後に好奇心に負けてしまった先々代の手によって破られてしまうのだが……）

　先々代は友人を家に泊め、酒を呑み夜遅くまで語らいあった。
楽しい思い出に花が咲き、酒が進むなか、いつしか友人は酩酊状態で泣き出してしまう。
先々代は介抱しようとするが、酔った彼の目には先々代の姿は見えていない様だった。
幾つかの不可解な言葉を発し、途中から明らかに酒の影響なのかおかしなことを言い始めたのだ。

「ああ、奴らが来る。そんな事が許されるのか……ザックス（確か彼の仲間の名前だった）済まない。俺を許してくれ……」
「……カレン（友人と付き合っていると紹介された覚えがある。確か魔術師だった）お前まで奴らの仲間に……嫌だ、俺は」
「恐ろしい……俺たちは騙されていたんだ。俺は、絶対に生きて帰ってやる」

「美しい、気が狂いそうだ。美しく咲き乱れている。この世の楽園だ。楽園……そうじゃない、俺たちを誘い出す為の偽りだ……恐ろしい…｜トリフィード《咲き誇る狂気の花》……」
「俺があんな物を持ち出したばかりに……みんな済まない…」

　先々代は酩酊が進み嗚咽したまま寝てしまった友人に毛布を掛けてやり、一体彼の身に何が起きたのかと思案するが、これが酩酊の果ての混乱なのか彼の身に起きた出来事なのか、結論を得ることは出来なかった。
翌朝、目を醒ました友人は昨夜の事を途中までは覚えていたものの泥酔してからの彼の言動はよく覚えていない様だった。
朝食を共にして楽しく語り合う。
そして友人は笑顔で別れを告げて新しい人生のために去って行く。

　先々代は最後に挨拶を交わした時の友人の眼差しを忘れることが出来なかった。
その瞳の奥に宿る恐怖と悔恨、そして狂気を……。